小春日和の大菩薩峠

     樋口 正雄

 中央高速を甲府盆地に入ると、まわりは雪をかぶった甲斐駒ケ岳から北岳へと続く南アルプスや樹林帯に覆われた奥秩父の山々が見える。右手には、樹林帯が切れて白い雪の帯の大菩薩が見えてくる。

 暮れの十二月二九日、学生時代の友人と、大菩薩の麓にやってきた。登山口の裂石で車を降りると、寒気が身にしみる。しかし、風も無く、空は晴れ、今日一日の晴天を約束してくれているようだ。

 森の木々は、すっかり葉を落とし、枯葉が道に積もり、その上に数センチの雪が積もっている。登山道には、人が歩いた跡は凍っていてツルツル滑る。一時間半程で、上日川峠に着く。今日は、峠の茶店も閉まっている。

 

白く輝く南アルプス全山(上日川峠より)

 

 十センチほど雪が積もった針葉樹の中の道路を進む。しばらく行くと、真っ青な空の下、右手の潅木の間から、純白の富士山が見える。やがて、少し登りの道となり、小一時間で、大菩薩峠に出る。誰もいない峠で、屏風の様に甲斐駒ケ岳から聖岳へ続く雪の峰が続き、その右には、八ヶ岳が競うように雪の峰を連ねている。友人と二人、一つ一つ山の名前を確認する。峠の反対側は、樹林の中にまだら模様に雪を付けた大岳山、御前山、三頭山と奥多摩の山が見える。

 

     大菩薩峠への森の道を歩く

 

峠から、雪の尾根道を大菩薩嶺へ向かう。賽の河原に来ると、木々の生えていない雪原を冷たい風が通り抜け、雄大な裾野を広げた富士山が背後に見える。やがて、森の中の道となる。少し、木々が無くなり、広場のような展望のない大菩薩嶺にでる。雪の上に腰を下ろし、久しぶりに雪山に来た友とぶどう酒で乾杯する。

 下りは、丸川峠へ向かう。北側の斜面は日が当たらないためは、雪が深く、膝位まで埋まる。やがて、尾根道に戻ると、広葉樹の木々の間から太陽がさんさんと照って、暖かくなってくる。やがて、雪原に暖かい日差しの丸川峠に着く。今日は、山小屋も扉を閉ざし、静まりかえっている。丸木のベンチで一休みした後、登山口の裂石へと下る。日当たりの良いカヤトの尾根道の雪もしだいに少なくなっていく。沢に出て、しばらく歩いて車を止めたところに着いた。

帰り道、勝沼でウドンにカボチャや野菜がたくさん入った「ほうとう」を食べる。味噌仕立ての素朴な料理である。すっかり、満腹したところで、東京へと戻る。