錦秋の越後三山

     樋口 正雄

十月十ニ日早朝、山岳会のFさんと、上越新幹線で東京を立つ。浦佐から、八海山の屏風道登山口へ向う。仰ぐ山は、青い空の下、赤や黄色に色づき、秋真っ盛りである。九時過ぎ、林の中を歩き始める。

清滝を過ぎると、道は、鎖が張ってある岩尾根となる。七合目のノゾキの松は、足元がスッパリと切れ落ち、右手には、垂直の岩が聳えている。岩尾根を終え、なだらかな草の峰を越え、一時半頃、千本檜小屋に着く。快晴の空の下、草の上にシートを広げて、遠く巻機山を眺め、ビールを飲む。夜は満点の星空となり、麓の湯沢の明かりがキラキラと輝く。

 翌十三日、五時過ぎに、八ツ峰へ向う。鎖を張った岩尾根が延々と続く。やがて深い谷を隔て、左手の駒ケ岳と中ノ岳の尾根からオレンジ色の朝日が顔をのぞかせる。大日岳の下りは十五メートル位の完全な岩場で緊張する(写真1)。

写真1 大日岳の岩場の下り

 

 岩場の下で、下山するFさんと別れ、一人旅になる。やがて、黄色い草モミジのなだらかな道となる。中ノ岳を正面に見ながら、尾根は、急な下りとなる。快晴の下、気温が上り、汗ばむ陽気になる。所々、岩場が現れ、鎖を伝って上り下りする。御月山の登りを終えると、眼下に草原の中の祓川が見渡せる(写真2)

写真2 縦走路のオアシス祓川

 

 谷に水を期待し、一気に下る。下りきった鞍部には、果して冷たい水が流れていた。荷物を放り出して、顔を流れにつけてゴクゴクと乾ききった喉を潤す。

 黄色くなった草原を登り、一時頃、中ノ岳に着く。ここで今朝、八海山を先頭で出た人に追い付いた。目の前には、駒ケ岳が雄大に聳え、今日中に行けるかどうか不安がよぎる。再び、リックを担ぎ、縦走路を歩き始める。道に笹が生い茂り歩きにくい。空には、雲が舞い始め、次第に天候が悪化し始めた。駒ケ岳の登りにかかる頃、深い霧に囲まれる。やがて、四時過ぎ、頂上に着く。一瞬、ガスが切れ、青空がのぞく(写真3)。眼下の茶色い草原の先に駒の小屋が見える。再び、霧がかかる。四時半頃、小屋に着く。期待したビールは、売っていなかったが、若い小屋番を拝み倒し、自前の缶ビールを一本分けてもらう。さっそく一人で祝杯を上げる。

    写真3 越後三山最後の駒ケ岳

 

 明くる十四日、うってかわって冷たい西風が吹き、霧雨で寒い。小倉尾根をゆっくりと下る。やがて太陽が顔をだし、九時半頃、駒の湯に下り着く。温泉に浸かり、疲れた体を湯船に横たえる。タクシで浦佐へ出て、新幹線で東京へ帰る。