高山の花咲き乱れる白山を歩く
梅雨もまだ明けない平成十五年七月二八日朝、特急電車で、一人、大阪を出発する。二時間半で金沢に着く。バスで加賀側の白山登山口「別当出合」へ向かう。厚い雲の空の下、車窓から見る水田の青々とした稲穂が美しい。曇り空の下、午後一時過ぎに登山口に着く。山を降りてきた大勢の人が休んでいる。テントの入った大きなザックを担ぎ、釣橋を渡り、「砂防新道」の深い森の中を登りにかかる。深い霧に包まれ、小雨が降ってくる。「室堂」との分岐点を右に入り、静かな草原の中の道を歩く。イワカガミやハクサンコザクラ等の高山植物がたくさん咲いている。雪融け水の流れる谷を渡り、四時頃、「南竜ケ馬場」の山小屋に着く。日当たりが良く、気持ちの良い草原にテントを張る。お茶を沸かしてくつろぐ。時々、霧が晴れて、残雪を頂く白山の緑の斜面が見える。
早朝四時前、寒くて目が覚める。快晴である。急ぎ、お茶を沸かし、朝ご飯の用意をする。六時少し前、南の「別山」に向けて、出発する。しばらく行くと、池塘がある広大な草原に出る。遠く、夏雲の下に金沢辺りが見え、後を振り返ると、白山最高峰の「御前峰」が朝日に輝いている。少し下って、勢いよく水が流れる谷を渡り、対岸の尾根を登る。雪渓を登り出す頃、霧が山を覆い始め、視界がなくなる。尾根の上に出ると、チングルマ、シナノキンバイ、ニッコウキスガが咲くお花畑の中の道を歩く。小さな草原の中に池があり、ハクサンコザクラが群生し、水辺にはキヌガサソウが大きな花を広げている。歩いている人も少なく、静かな時間が流れる。深い霧の中、八時半頃、社のある別山に着く。
元来た道を南竜ケ馬場へ引き返し、十一時前にテントに戻ってくる。お昼ご飯を食べた後、十二時前に「展望新道」を北の御前峰へ向かう。「北アルプス展望台」に来ると、遠くの山は雲に覆われて見えないが、テントを張った南竜ケ馬場が気持ち良さそうに見下ろせる。右下には大白川の湖が山の間に深い緑の水をたたえている。尾根の登りにかかると、石楠花、ミヤマリンドウが咲いている。やがて草原の中の道になると、下に花弁を向けた可愛いクロユリが至る所に咲いている。
草原に咲くクロユリ
やがて、室堂からの石畳の道に合流し、御前峰を登りだすと、人が多くなる。一時半頃、頂上に着く。休まず、お池めぐりの道に入ると、静かになる。雪が半分位融けた池の水は神秘的な深い緑色をしている。「大汝峰」にやってくると、御前峰の人ごみが嘘の様に、誰も登って来なくて静かである。ハイマツの林の道を歩き、室堂に戻り、谷沿いに四時過ぎ、南竜ケ馬場のテントに戻る。夕方、兄の文男夫婦が登って来る。久しぶりの再会を祝し、山小屋のテラスで一緒に夕食を作り、酒を酌み交わす。
翌朝、再び山は深い霧に覆われている。五時過ぎ、兄夫婦と一緒に、再び、展望新道から御前峰へ向かう。今日は、全く、視界が利かず、少し、肌寒い。室堂に荷物を置いて、軽い荷物で御前峰を往復する。頂上から下りて来ると、少し、霧が晴れて、辺りの景色が見え出す。観光新道を別当出合へ下る。この道の両側もお花畑が続き、シナノキンバイ、ハクサンフウロなどが美しい。少し、高度が下がってくると、白山固有種のハクサンシャジンが薄い水色の可憐な花を見せている。午後一時頃、登山口へ下り、車でやってきた兄夫婦と別れ、一人、金沢へと戻る。