早春の上高地

 

 雪の上高地を最後に訪れたのは、何時の事だろうか。二十年位前の正月に前穂高岳を登ろうと、麓の沢渡から四時間近く歩いて訪れたその場所は昔の地名の「神河内」そのものだった。深い雪に覆われた森、雪の間を流れる梓の流れ、雄大に聳える穂高連峰・・・。再び、あの景色を眺めてみたいと、三月二九日、大きな荷物を担いで、学生時代の友人と上高地を目指した。

 釜トンネルを抜けて樺の林の道をしばらく歩くと、少し煙を上げ、雪をまとった焼岳が見え出す。そして、山の裾を曲がると、静かな湖面を見せる大正池に出る。やがて、雪に埋もれた赤い屋根の帝国ホテル前に出る。

 

静寂の大正池

 

雪の中の上高地帝国ホテル

 

 河童橋にやってくると、次第に山の雲も取れ、真っ白な穂高連峰が見え出す。まだ、雪が50センチメートル位ある小梨平の森の中にテントを張り、友人とビールで乾杯する。天気はどんどん回復し、雲ひとつない青空が広がる。

 

梓川を前に穂高連峰

次ページへ続く