五竜より鹿島槍へ

     樋口 正雄

 七月二十日朝、会社の人と、かんかん照りの東京を立って長野経由のバスで八方に入る。ロープウエイとリフトを乗り継ぎ、十時半過ぎ、八方尾根の1600m地点に着く。霧に覆われて視界はきかない。半ズボンでは、少し肌寒い位である。

 遊歩道沿いに歩き始める。草原には、ニッコウキスゲやリンドウが咲き誇っている。上の樺の大きな雪渓の下に出て、お茶を沸かして、お昼にする。

 やがて、痩せた尾根道を越え、唐松小屋に出て、後立山連峰の主稜線に着く。登ってきた信州側と対照的に、なだらかな越中側はよく晴れて、黒部川を隔てて遠く剣岳北方の尾根が見渡せる。

 南の牛首岳に向けて、岩くずの尾根を歩き始める。山道の両側の草原にはシナノキンバイの黄色い花が咲いている。なだらかな白岳の斜面を登り、四時半頃、五竜小屋に着いた。小屋の横の一角にテントを張る。

 翌ニ一日、朝は寒く、辺りは霧に覆われている。六時過ぎ、五竜岳へ向け出発する。すでに、大勢の人が登っている。岩の道を一時間程で頂上に着く。天気は晴れて来て、立山・剣岳の雪渓や尾根がすぐ近くに見える。太陽を背に手を振ると、霧の中にブロッケンが見える。

岩くずの長い下り道となる。さらに、幾つもの小さな峰を登ったり下ったりして、お昼前に、狭い尾根にへばりつく様にして立っているキレット小屋につく。小屋でビールを仕入れて、鹿島槍へと向かう。俄然、尾根は、鎖やはしごで補強した険しい道となる。やがて、尾根が立ち切れたような八峰キレットを通過する。はい松の生えた急斜面を喘ぎながら、大きな雪渓が残る鹿島槍の吊尾根にでる。荷を置いて、北峰を往復する。あいにくとガスに覆われて何も見えない。再び、荷を担ぎ、南峰へ向かう。二人共かなり疲れてきた。やがて、二時半頃、大きなケルンが林立する鹿島槍の南峰に着いた。早速、小屋で仕入れたビールを空ける。

 頂上から下り始めると、夏の日差しが戻ってくる。あたりは這い松の穏やかな雰囲気となってきた。やがて、ハクサンイチゲの咲くお花畑を過ぎ、四時頃、冷池に着いた。隅の方にテントを張る。

 二二日、雨上がりの朝、すっかり雲も切れ、目の前に朝焼けの剣岳が見える(写真)。六時過ぎ、朝露に濡れたシラビソの森の道を歩き始める。爺ケ岳の登りにかかる。頂上に立つと、昨日越えてきた鹿島槍の双耳峰がシルエットとなって見える。また、遠く天を突くような槍ケ岳も見える。下り道、砂地にピンク色のコマクサの群生を見つける。やがて、広い草原となり、九時頃、種池小屋に着いた。

しばらく休んで、扇沢へと下山する。下る程に、気温が上がり、汗が噴出してくる。見上げると、種池あたりの稜線が高く望まれる。十一時前、扇沢につく。帰り道、薬師湯に寄る。湯船に飛び込んだら、日焼けした手や足がピリビリして、慌てて湯から飛び出してしまう。

 

朝焼けの剣岳(雪渓が美しい)