新雪の木曽駒が岳

 十二月に入り、都会でも寒い日が続くようになった。雪に覆われた木曽駒ケ岳を歩いてみようと、十二日早朝、一人で大阪を出て木曽路へ向かう。民芸調の駅舎がある木曽福島で下車する。暖かいストーブの入った待合室でバスを待つ。大原行きバスの乗客は僕一人だった。途中でおばさんが乗ってきたが、貸切り状態で終点の木曽駒高原に着く。空は少し雲が多いが、晴れている。九時半頃、葉を落とした気持ちの良いカラマツ林の中の道を歩き始める。山麓のスキー場に着き、少し雪が積もったオープン前のゲレンデの中を登る。林道が終り、フワリと雪が付いた飛び石を伝い、谷を渡る。対岸に着くところで岩が滑り、流れに落ちて乾いていた靴を濡らしてしまった。出だしからついていない。ここから雪の尾根に取り付く。次第曇ってきて小雪が舞い始める。針葉樹林の中、急な登りが続く。五十センチ位の積雪で、踏んでも固まらず、歩きにくく、なかなか進まない。四時過ぎ、ようやく七合目の避難小屋に着く。入り口を開けるとだれもいない。土間に薪ストーブがあり、六畳位の真新しい板張りの居室が一階と二階にある。早速、コンロに火を着けてお湯を沸かし、焼酎を飲んで暖まる。夜はしんしんと冷える。

 翌朝、七時前に小屋を出て、登り始める。ここから、尾根を左の森林帯の中を進む。次第に雪は膝位までもぐりはじめる。しばらく進むと、朝日が射し始め、神秘的な雰囲気が漂う。

                 朝日が射し始める

 雪は相変わらすふかふかの雪で、なかなかはかどらない。やがて浅い谷を登り詰めて稜線に出ると、ようやく、九合目に出る。右手に、雄大な三ノ沢岳が見え、その奥には十一月始めに歩いた空木岳が見える。

        樺の林の斜面にひたすらラッセルを続ける

 ここからは西風で雪が吹き飛ばされてできたエビノシッポの斜面を登る。やがて、十一時過ぎに頂上に着く。頂上は反対側の千畳敷から登ってきた人達が休んでいる。昨日から初めて人と声を交わす。結局、麓から頂上まで自分ひとりで雪の尾根に路を付けて来たことになる。

           木曽駒ケ岳への最後の登り

 しばらく休んだ後、登ってきた路を下る。樹林帯に入ると、再び、ふかふか雪に苦しめられる。二時半頃にスキー場に着く。スパッツをはずして休んでいると、ちょうど乗用車が通り、木曽福島まで送ってもらう。