鈴鹿・鎌ヶ岳

 

 御在所岳を中心とした鈴鹿南部の山は、至る所白い花崗岩が露出し、荒削りの彫刻のような岩が見る者の想像をかきたてる。天狗のお面、長いくちばしの鳥、仏像・・・。十一月三日の朝、デイパックにお昼ご飯とコンロ等の装備を詰めただけの軽装で名古屋から電車に乗って湯ノ山温泉へ向かう。

 十時頃、谷川に沿って登り始める。真っ青な空の下、山は黄色や赤に紅葉している。右手に御在所岳へ登る赤いロープウエイのゴンドラを眺めながら、鎌ヶ岳へ続く長石谷に入る。真っ白い岩盤を透明な水が這うように流れている。広い谷の両側に右に左にかすかな踏み跡を探しながら登って行く。御在所岳へは大勢の人が登って行ったが、こちらは、数人の登山者が登っているきりで、静かである。

 谷の水が無くなり、木々の間の急斜面を登ると岳峠に着く。ここは、右に沢山の岩を重ねた様な鎌ヶ岳が聳え、登ってきた反対側には白い砂の急斜面が落ちている。左の尾根は、紅葉のギザギザの岩尾根が続いている。右の岩と岩の間に登山道がある。黄色い立ち枯れたススキの林を過ぎ、岩尾根を登り、十二時過ぎに鎌ヶ岳の頂上に出る。平たい白い岩の上に腰を下ろし、バーナーに火を着けて、紅茶を沸かす。辺りの景色を眺めながら熱い紅茶をすする。全山黄色や赤に紅葉し、季節は何時の間にか夏から秋へと移ってきている。冷たい風に吹かれて、体は冷えてしまった。

 帰りは、登ってきた所を戻り、気になる岳峠から続くギザギザの岩尾根を歩いて探検してみることにする。小さい峰を越すと、岩が露出し、長い鎖が張ってある岩場に出る。さらに、両側が切れた白い砂地の細い尾根を歩く。やがて、岩のヤセ尾根を過ぎると、黄色い葉を付けた木々が茂る穏やかな尾根となる。ここから、岳峠へ戻る。登ってきた長石谷を下る。

 最初は、御在所岳を登るつもりでやってきて、人の多いところを避けて、地図を眺めて鎌ヶ岳を登ったが、深い谷や岩尾根の変化に富んだ山で思わぬ発見をした。豊かな流れの谷に沿っての登りは、心を落ち着かせてくれる。また、青い空の下、紅葉の森の中の岩をつかんでのヤセ尾根歩きが一層充実した気分にしてくれた。

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