紅葉の戸隠高妻山

     樋口 正雄

 信州戸隠山の奥に聳える高妻山は、すっきりした三角形の山である。何度も妙高を訪れるたびに、近くに高妻山を遠望し、いつか行ってみたいと思いつつ、そのままになっていた。十月十四日、思い立って、会社の人と早朝7時半の長野新幹線で東京を立つ。軽井沢あたりの車窓から眺める浅間山は雲の覆われて、天気は、パッとしない。長野からバスに乗り、11時頃、戸隠奥社入口にてバスを降りる。戸隠への山道に入る頃、真っ青な晴れ間が出てきて、紅葉した白樺の黄色い葉や真っ赤なカエデの葉が一層引き立つ。背後には、飯綱と黒姫のたおやかな山裾が薄青に霞んで見える。

 登りは俄然険しくなり、クサリ場の登りや四つんばいになる細い岩尾根となる。相棒の顔も緊張でこわばって見える。岩溝の登りを終えると、八方睨に出る。ここは、まわりから抜きん出た頂上で、遠く白馬から槍へと続く北アルプスが見える。背後の飯綱山と黒姫山も真っ青な空の下、たおやかな山並みが黄色く色づいて見える。さらに、ひときわ高く高妻山が聳えている。

 黄色く紅葉した木々の間を右側にスパッと切れ落ちた谷を見下ろしながら、一不動へと向かう。痩せ尾根のコブを幾つも登り降りし、下り切った鞍部の一不動の避難小屋に着いた。既に、十人位の人が泊まっている。隅のほうに,居場所を確保する。おでんを突っつきながら、焼酎を酌み交わす。

 翌朝、少し雲の多い朝であるが、高妻山に向けて出発する。右下の戸隠高原は、まだ、雲の下だ。五地蔵山を越えると、雲が切れて、晴れてきた。右手になだらかな山並みを見せ、麓がキツネ色の草原を広げる妙高・火打のなだらかな山並が望まれる。胸付き八丁の急峻な登りを終えると、高妻山の頂上に着いた。眼下に、鬼無里の村を隔てて、左手遠くすっかり雪渓の雪を落とし、青く霞んだ白馬岳から鹿島槍ケ岳に続く北アルプスの山並が見える。

 帰りは登って来た道を戻り、戸隠牧場へ下りる。草原では、牛がのんびりと草を食み、上を見上げると、ゴツゴツした戸隠の山が望まれた。戸隠の荒々しい岩尾根をたどり、たおやかな高妻山へと結ぶ山旅は、麓の素朴な村の雰囲気と戸隠蕎麦と合わせてのんびりと味わいたい。

 

八方睨から見る高妻山