残雪の雪倉岳と白馬岳を滑る

樋口 正雄

 52日朝、大阪を出発して、松本にて東京から車で来た学生時代の友人と再会する。暖かい日差しの下、雪の常念岳眺めながら、安曇野を車で北に向かう。信濃大町に来ると、豊富な積雪を残した爺ケ岳、鹿島槍ヶ岳、五龍岳が目に飛び込んでくる。栂池スキー場に着き、短いスキーを抱えて、ゴンドラに乗り込む。栂池自然園でロープウエイを降りると、周りは、針葉樹の森一面の雪原に眩いばかりの太陽が反射している。半袖シャツ一枚になり、雪の斜面を歩き始める。一時間と少しで、茫漠たる雪原の天狗原に着く。ここは、雪の上にヘリポートがあり、スキーヤを乗せて栂池から飛んできたヘリコプタが爆音を立てて降りてくる。ここから、反対斜面をスキーを付けて滑りだす。雪に埋まった谷沿いに一時間半ほど滑り、蓮華温泉へ着く。目の前に真白な雪倉岳、朝日岳が見える。

 翌朝七時前、快晴の空の下、勇躍、雪倉岳へ向かう。まだ硬い雪の斜面を横断して、瀬戸川へ滑降する。川は雪解け水が勢いよく流れているが、ちょうど雪で覆われていてところで対岸に渡る。雪に埋まった小沢に入る。高度を上げ、雪の大斜面を登る。やがて、北アルプスの稜線に出て、十一時過ぎ、雪倉岳の頂上に着く。岩の上に荷物を下ろし、紅茶を沸かす。空は晴れて微風が吹き抜ける。すぐ南に白馬岳が聳え、黒部川をはさんで三角錐の剣岳が見える。

紺碧の空の下、雪倉岳の頂上で

 小一時間ほど頂上で休んだ後、スキーを付けて滑り出す。北に張り出した雪の大斜面に飛び込み、自分たちのシュプールを残していく。一時間半ほどで一気に瀬戸川に降りてくる。右手の雪の斜面に大きな黒い落石を見つけ、身構えると、熊が斜面を駆け下りてくる。慌てて、大声を出すと、熊君の方がびっくりして逃げていった。蓮華温泉に戻り、温泉に浸かると、今日の疲れも霧散していく。

 翌四日も快晴の朝が訪れる。七時前に宿を出て、一昨日滑り降りてきた谷沿いに、歩き出す。あちこちで雪解けが進み、雪の下から勢いの良い水音が聞こえる。二時間半程で天狗原に着く。ここで下山する相棒と別れ、一人白馬岳を目指す。白馬乗鞍岳の雪の登りには、大汗をかかされる。雪に埋まった白馬大池を見下ろしながら小蓮華山を登る。平坦な岩くずの夏道を歩く。右手には、昨日登った雪倉岳が聳え、左手には荒々しい岩肌を見せる杓子岳が望まれる。少し曇りがちな天気になってくる。三時間ほどで、白馬岳に着く。頂上を通り過ぎ、山小屋に行き、缶ビールを仕入れる。大雪渓の滑り口で荷物を降ろし、缶ビールを空ける。からからに乾いた喉に心地よい。休憩の後、スキーを付け、大雪渓を滑り始める。ゆるやかな広い斜面を滑った後、いよいよ谷に入り、上部の急斜面を滑る。午後の気温が上がった状態で雪が少し緩くなっていて快適に滑る。やがて、デコボコのデブリの部分を下り、右の斜面を滑り、猿倉台地を通り、三時過ぎ、除雪された猿倉に着いた。

大雪渓を滑る