晩秋の中央アルプス

 十一月の声を聞いてそろそろ山には雪が来る頃となった。雪に覆われる前の晩秋の静かな山を歩いてみたいと、山の会の先輩と甥子さんと中央アルプス南部に一泊泊まりで出かけることにした。十一月一日早朝、車で名古屋を出発し、木曽谷を通り、八時過ぎに伊奈川ダムの林道車止めに着く。少し青空が見えるが、曇空である。谷の流れは神秘的なコバルトブルーで、あたりも森は黄色や赤に色付いている。林道を少し歩き、登山道に入る。高度を上げるに従い、苔むした針葉樹の森となる。やがて、開けた鞍部になり、越百小屋に着く。入り口で声を掛けると、おばさんが一人で小屋番をしている。ここから急な登りとなり、深い霧に覆われ始める。やがて、一時頃、越百山の頂上に着く。西からの冷たい風を受けながら、北へ向けて視界の無い尾根を進む。仙涯嶺にかかると、道は切り立った岩場の下を通過する。

    仙涯嶺の岩場を横切る

三時半頃、風もおだやかになり、霧が取れて青空が見え出し、南駒ケ岳の頂上に着く。北には空木岳、宝剣岳、木曽駒ヶ岳と主脈の頂上が見える。左手には、薄青く、木曽御岳と乗鞍岳が見え、右手に伊那谷を隔てて南アルプスの山並みが屏風のように連なっている。そして、足元草が茶色く枯れた谷底に今日泊まる予定の赤屋根の擂鉢窪小屋が見える。尾根を下り、右下の谷へ入り、ちょうど四時に小屋に着く。先行のグループの四人が泊まっている。早速、シートを引いてコンロに火を着け、夕食を作る。夜、小屋の外に出ると満天の星空にオリオン座が頭上に光り、遠く飯田の町の明かりがキラキラと光る。

 翌日五時前、寒さで目が覚める。朝食を済まして外に出ると、快晴の空の下、黒い南アルプスの山並みの後ろから橙色のご来光が輝き出す。六時過ぎ、小屋を後にする。谷に太陽が差し始め、草原が黄色く染まる。

     南アルプスの稜線を越えて朝日が昇る

       擂鉢窪の草原に朝日が輝く

尾根に登り返し、風の無いおだやかな縦走路を歩き始める。いろいろな形の花崗岩のオブジェの間の白い砂地の中の踏み跡をたどり、八時過ぎ、空木岳の頂上に着く。右下に駒ヶ根へ続くハイ松の長い尾根が見える。少し休んで、北へ岩の尾根を下る。木曽殿越から、左の木曽谷へ続くトウヒやコメツガの森を歩く。木々の間から暖かい日差しがこぼれ、振り返ると、下ってきた空木岳や南駒ケ岳が高く聳えている。三時間近く、尾根道を下り、ようやく、沢音が聞こえ、釣り橋のある北沢に着く。川原でポタージュスープを作り、昼食をとる。ここからさらに一つ尾根を越す。高度を下げるにつれて、紅葉した木々の森になる。林道に出て、伊奈川の谷沿いに歩き、二時頃、車を置いたところに戻ってくる。