雪の比良山系南部の縦走
一月末に雪の中を南西尾根から武奈ヶ岳に登り、帰りに奥ノ深谷の源頭の森と谷を歩き回った。この時、南部に広がるツゲやブナに覆われた山々に興味を引かれた。この南比良山域を走破しようと、南端の花折峠道から蓬莱山・比良岳・烏谷山と縦走し、前回通った金糞峠へつなげる様に南から北へ縦走することとした。
二月一四日、京都出町柳からバスで出発する。バスの中は登山者で八分位、座席が埋まっている。京都から滋賀に入り、雪があたりに見え出し、八時半頃「平」で下車する。ここでは、僕以外に四人の登山者が降りる。今日は、前回の雪や雲の天気と異なり、午後早い時間までは青空が期待できる予報で、山村には青空が広がり、朝の寒気が身にしみる。しばらく杉林の中を登る。大分前に歩いた足跡が雪の上に硬く凍結して残っている。林が少し切れたアラキ峠からは、西に京都北部の低い山並みが見える。ここからは急な登りとなる。杉林を抜けると、まばらな広葉樹林になり、十時頃、雪面にさんさんと太陽が輝く権現山の頂上に着く。雪の上に腰を下ろし、魔法瓶の熱い紅茶を飲みながら、まわりの景色を眺める。目の前にこれから向かうなだらかな蓬莱山が広がり、右下には薄青く琵琶湖が雄大に見える。湖の南端には、比叡山がどっしりと薄青く聳えている。
雪が積もった潅木の尾根を進む
なだらかな雪の尾根を北に歩き始める。気温が上がって雪が緩み、所々、ズボズボと潜って足をとられる。二つ程緩い山を越えると、しんと静まり返り、真っ白く凍結した小女郎池に着く。雪の斜面を登り、十二時頃、蓬莱山に着く。登ってきた方と反対の北斜面は琵琶湖バレースキー場となっていて、色とりどりの服を着た大勢の人が滑っている。場違いな場所に飛び込んだ気分である。スキー場の横を急ぎ足で通り抜けて、森に入り、木戸峠に出て、再び、山登りの領域に入る。ここからは、雪の尾根に踏み跡がない。雪は脛から膝位もぐる。夏の標識や木に結び付けられた赤いテープを頼りに進む。
蓬莱山から堂満岳への深い雪の尾根にて
烏谷山を越えると、目の前に比良山系の北部の山が広がる。二週間前に登った武奈ヶ岳の南西尾根が白く雪を付けて見える。荒川峠、南比良峠と起伏のある尾根を歩く。晴れていた空にはもう薄雲が広がり、天候は悪化の兆しを見せている。最後の登りの堂満岳がどっしりと目の前に広がってくる。深い森の中を西斜面に大きく迂回する。ここで今日始めて単独の登山者とすれ違う。時間も遅いのに大丈夫かと心配するが、僕よりもずっと年が若そうであるので、大丈夫だろう。やがて、二週間前に歩いた見覚えのある金糞峠に出た。
左に武奈ヶ岳と真白い南西尾根を見る
少し雨がパラついてきた。何とか本降りになる前に下ろうと、歩みを速める。大勢の人が歩いて溝の様になった雪道を登山靴でスキーの様に滑りながら下る。谷を下っていくと、次第に雪が無くなり、地肌が見えるようになってくる。車が通る道に出て、少し駆け足で下る。四時過ぎ、登山口のイン谷口に着いた。定時のバスが出発するところにちょうど間に合った。バスの中でスパッツを脱いで、チョコレートをほおばって、ようやくくつろいだ気分になる。やがて、大粒の雨がバスの窓ガラスをたたき始める。バスの後ろの窓から比良山側を見ると、黒い雲におおわれて視界が無くなっていた。
今回の縦走で比良山系の中央から南部の尾根を線で繋ぐように歩いたことになる。山の様子も分かり、これからはもう少し森や谷を含めて面の広がるように歩くことにする。